〜沖縄タイムス1998/05/08夕刊〜
金武町の億首川に生息するテラピアの雄魚の血から、本来雌魚だけが持つタンパク質、ビテロジェニンが検出されていることが琉大熱帯生物圏研究センター瀬底実験所の竹村明洋助教授(魚類生理学)の研究で明らかになった。雄からのビテロジェニンの検出は、欧米の研究で、人の生殖機能などへの悪影響が心配されている「内分泌かく乱物質」(環境ホルモン)が原因とされており、今回の検出によって県内の河川が環境ホルモンに汚染されている可能性が浮かび上がっている。竹村助教授は「この結果から、億首川が環境ホルモンで汚染されているとは断定できないが、行政を含めた総合的、緊急な研究が必要」と話している。
環境ホルモン問題について環境庁は「世代を超える深刻な影響の恐れがある」として、総合的な対応方針を発表し、今月中に専門家による問題検討会を設置。同ホルモンの野生生物への影響実態調査や人の精子調査などを進め、科学的に未解明なメカニズムにメスを入れる方針にしている。
ビテロジェニンは本来、雌だけが持つ雌性ホルモンの働きで合成されるタンパク質で、体内で卵黄をつくる。他の研究によって、環境ホルモンが雌性ホルモンと同じような働きをすることで、雄の体内でもビテロジェニンンが合成されると考えられている。
竹村助教授によると、自然動物の雄からビテロジェニンが確認されたのは、東京・多摩川のコイ、東京湾のカレイに続き全国で三例目。テラピアはアフリカ原産の魚で1950年代に沖縄に持ち込まれたが、県内では食用にはなっ
ていないという。
研究は、1995年4月から1996年3月までの一年間、億首川で一カ月ごとに採集した雄と雌のテラピアの血を分析。その結果、サンプルとなった約124の雄の大半から20〜30マイクログラム(雌の約一%)のビデロジェニンが検出された。
検出について、竹村助教授は「環境ホルモンによる汚染が証明されたわけではない。水中や土壌中の環境ホルモンの分析、正常な雄魚を億首川に放す実験などで確認する必要がある」と指摘。行政や他の分野の研究者を巻き込んだ緊急かつ総合的な取り組みを訴えている。研究結果は24日の沖縄生物学会で発表される。
環境ホルモン
体内に入るとホルモンに似た働きをして、生殖機能などに悪影響を与えるとされる化学物質の総称。PCB、ダイオキシンなどの物質が挙げられており、プラスチック製の学校給食の食器から溶け出すとの指摘がある。海外では縮んだワニの性器や、男性の精子数の減少と結び付けた研究も発表されている。
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