「環境ホルモンで初方針−生殖機能など調査」

厚生省



〜沖縄タイムス1998/05/08朝刊〜

 生物の生殖機能などへの影響が指摘されている内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)について、環境庁は7日「世代を越える深刻な影響をもたらす恐れがある」として、野生生物への影響実態調査や人の精子調査などを進めていくとする「戦略計画」を発表した。環境ホルモン問題で国が総合的な対応方針をまとめたのは初めて。
 同庁は今月中にも、専門家による既存の研究班に地方自治体や産業界の関係者らを加えた「内分泌撹乱化学物質問題検討会(仮称)」を設置。厚生省は既に人体への影響について「健康影響に関する検討会」を発足させており、立ち遅れが指摘されていた環境ホルモン対策が本格化する。
 戦略計画では「環境ホルモンは生物生存の基本にかかわり、環境保全条の重要課題である」と指摘。「科学的に未解明な部分が多く、メカニズム解明のために調査研究が必要」としている。
 その上で具体的な対策として

    @水性生物などの生殖機能異常と汚染との関係を推定するための全国調査
    A環境ホルモンとされ約70の物質による大気、水などの汚染調査
    B成人男性の精子数調査や、胎児のへその緒の汚染濃度測定
    C国際シンポジウムの開催
 などを挙げ、地方自治体や研究機関、民間企業などと連帯してこれらに取り組む、としている。
 また一部の発展途上国では先進国で生産、使用が禁止された残留性の高い農薬が現在も使用されているため、情報提供などの国際協力が必要、と指摘している。


〜沖縄タイムス1998/05/08朝刊第3面〜

■「環境ホルモン」市民の対応は不透明
環境庁が7日発表した環境ホルモン問題への「戦略計画」は欧米と比べ対応の遅れが指摘されてきた日本が国として初めてまとめた対策だが、個別の化学物質の評価などには踏み込んでおらず、市民がどのように対応するべきかは不透明なままだ。
 列記された対応策は、汚染状況の調査や異常発生のメカニズム研究など基礎研究の部分が中心。排出抑制策の検討などは、研究結果が出て各物質について環境リスク評価を行った後、ということになる。
 環境ホルモン問題の特徴は、プラスチックや農薬など日常生活のあらゆる場面で使われている多様な物質が対象になっていることにある。このため関係省庁も環境庁のほか、厚生、通産、農水、建設、文部、労働、科学技術の7省庁にまたがる。
 環境庁はその調整役を担っているが、今回の戦略計画は同庁の所轄事項に限られており、国の総合的対策としては十分と言い難い内容だ。市民の健康、特に胎児や乳児への大きな影響が指摘されている問題だけに、関係省庁の横断的な対応と迅速な情報公開が求められている。

■どう減らすか言及もなし
環境庁の戦略計画に不満
「疑わしい化学物質をどう減らしていくかの言及がないのはおかしい」。環境ホルモン問題への研究が欧米に比べ遅れている日本で、環境庁が打ち出した戦略計画に、環境保護団体や一部の研究者はこんな批判を投げ掛ける。実態調査、技術開発と内容は盛りだくさんだが、「最終的に何を目指すのかが分からない」と指摘する。
 グリーンピースジャパンで有害物質問題を担当する関根彩子さんは「先進国の中には、ホルモン作用が疑われる化学物質について、期限を設けて、生産・使用の中止を求めるなどの具体的対策を実施している国もある。『科学的知見が不十分』との理由で個別の物質を規制できないのであれば、この問題への認識としてお粗末すぎる」と手厳しい。

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