環境汚染の恐れがある化学物質を工場・事業所がどれだけ排出しているか、神奈川県と愛知県の一部地域で試験的に調べていた環境庁は1日、その調査結果を発表した。対象の4分の1にあたる約500の事業所が134の物質を排出しており、ベンゼンなど発がん性があるか、強く疑われる73物質は計5000トンが大気中に排出されていた。134物質全体では約2万トンになる。環境庁は、全国の一定規模以上の事業者が排出実態を行政に報告し、それを行政が国民に公表する制度(PRTR)の導入を検討している。報告と公表によって事業者の化学物質管理と排出削減を進めるためで、次期通常国会への法案提出を目指す。 同庁は今回の調査で、事業所や自治体の協力、排出量を算定するノウハウなどを得たとしており、制度づくりの基盤が整ったとみている。 化学物質の規制は、製造面では化学物質の審査・製造規制法で、環境汚染の面では大気汚染防止法などで対応してきた。しかし、化学物質は約10万種と数が多く、排出規制の対象がごく限られるなど、個々の物質に対する規制行政では対応しきれない面があった。 このため、経済協力開発機構(OECD)から、有害物質をどこにどれだけ排出したかを事業者が把握して行政に報告し、公表することを通して事業者に削減努力を求める「排出・移動登録制度」の導入が求められていた。 環境庁は昨年秋、多様な業種が集まっている神奈川県の川崎、湘南地域と愛知県の豊田市およびその周辺を調査地域に選定。物質の対象を178種とし、1800事業所のうち502事業所から、1996年度の排出実態の回答を得た。 排出されていた134種の物質を有害度によって4グループにランク付けしたところ、発がん性のある物質は10種で、排出量(自動車の排ガスなども含む)は約380トンだった。 このうち、ガソリンに含まれ、有機合成の原料でもあるベンゼンが263トンと最も多く、ダイオキシンも65グラムが焼却場などから出ていた。 次のランクの発がん性が強く疑われる物質は63種で計約4600トン。有機溶剤に使われるジクロロメタンが1150トン、合成ゴムの原料の1,3−ブタジエンが670トンなど。 発がん性の疑いがあるのがクロロメタンなど56種で計約1100トン。発がん性はないが慢性毒性のある物質は5種で計1万4600トンだった。このうちキシレン類が約7700トン、トルエンが約6900トンで量的には最も多かった。製造業種別に見ると、金属系製造業の排出量の4割近くをジクロロメタンが占めるのに対し、機械系製造業ではキシレン類が半分以上など差があった。 また、自動車と船からの排ガスを見ると、ベンゼンが約150トン、発がん性の強いホルムアルデヒドとアセトアルデヒドがそれぞれ約200トン、約80トン。ゴルフ場と農地への農薬散布では、臭化メチルが約200トンあった。 環境庁が環境ホルモンと認めた物質も、134種のうち、シマジンなど15種あった。 今回の調査では、個々の事業所は非公表とされたが、米国やカナダでは事業者ごとに公表、欧州でも市民が請求すれば情報を得ることができる。 環境庁は、今月下旬に中央環境審議会の環境保健部会を開き、この制度を中心に据えた総合的な化学物質管理の方策について検討。秋にも答申を受け、法制化を目指す。 ●環境汚染物質排出・移動登録制度(PRTR) 工場・事業所が使っている化学物質を調べ、大気や河川、海などに排出したり、廃棄物として処分場に移動したりした量を行政側に報告、行政が公表する制度。米国、オランダ、フランスはじめ欧米では数十物質から600物質まで、それぞれこの制度を適用している。OECDは加盟各国に対し、来年2月にPRTRの取り組み状況の報告を求めており、制度のない日本では、環境庁と通産省が制度化を検討している。 〜朝日新聞1998/05/02朝刊〜
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