「企業に排出量報告義務−通産省」

環境ホルモンなど科学物質



 人の生殖機能への悪影響が指摘されている「内分泌撹乱化学物質」(環境ホルモン)など化学物質による環境汚染に予防的に対応するため通産省は20日までに、化学物質の大気や水、土壌への排出量などを国に報告するよう企業に義務付ける「環境汚染物質排出・移動登録制度」(PRTR)を法制化する方針を固めた。
 経団連など産業界は「自主的な取り組みが現実的」と法制化に反対していたが、通産省は来年の通上国会にもPRTR法案の提出を目指している。環境庁も同様の法案作成を視野に入れており、化学物質行政をめぐる両省庁の権限争いが本格化しそうだ。
 PRTRの骨格として通産省は
    @国が排出などを報告すべき化学物質を有害性などを報告すべき化学物質を有害性などを考慮し選定する。

    A選ばれた化学物質を一定以上扱う企業に対し、産業廃棄物として排出する際の移動量や環境への排出量を国に報告するよう義務付ける。

    B排出量を国が集計し地域別に公表、将来的には事業所ごとに公表する。
との考えを示している。
PRTR(環境汚染物質排出・移動登録制度)
商業生産されている化学物質は10万種類を超える。このうち発がん性があると判定された物質は1%未満しかないなど化学物質の有害性ははっきりしないため、欧米では予防的に環境への汚染を減らす目的で導入されている。有毒性が疑わしい物質の排出を自主的に減らすほか、人体への悪影響が明らかになり排出量が多い物質は大気汚染防止法など規制的な手法の対象にして排出削減などの施策につなげる。
 米国はインド・ボパールでの米国系化学工場の爆発で周辺住民に多大な被害が出た事故を教訓に1986年に導入した。事故時の対応のため工場ごとの排出量の公表を求めている。一方、米国、オランダなどは化学物質による危険性を国が管理する発想から国が排出量のデータを集めている。
 PRTRを検討している同省化学品審議会の安全対策部会・リスク管理部会総合管理分科会では、通産省の考えに対し「口授ごとに公表するとどの程度有害性があるか分からない物質について数量だけが一人歩きして混乱を招く」などの反発が出ていた。
 これに対し、通産省は事業所ごとに公表するためには周到な準備期間を設けるなどと説明しており、経済界も受け入れに傾いているもようだ。
 PRTRをめぐっては、経済協力開発機構(OECD)が1996年日本も含む加盟各国に導入を通告した。環境庁は神奈川県川崎市、同藤沢市周辺、愛知県豊田市周辺の3地区を選びPRTRを施行実施しており近く報告をまとめる。
 日本科学工業協会が1992年度、経団連も1996年度から自主的にPRTRを導入しているが、まだ試行段階。排出量の公開も全国レベルにとどまっている。通産省、環境庁とも「協会に参加かしていない企業にも報告義務付けないと不公平で企業任せでは情報の信頼性に欠ける」などを法制化の理由に挙げている。

〜沖縄タイムス1998/04/20朝刊〜

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