「化学物質汚染対策を急げ」



 内分泌撹乱化学物質とか、環境ホルモンという聞き慣れない言葉がニュースに登場し始めた。
 廃棄物焼却施設から出るダイオキシン、プラスチック添加剤のPCB(ポリ塩化ビフェニール)、船底塗料や漁網の汚染防止に使われた有機スズ、殺虫剤のDDTなど、環境に放出された化学物質が、人間や野生動物に対し極微量でホルモンのように作用する。
 この作用が本来の内分泌系の働きを乱す。雄の雌化、生殖器の奇形、性行動の異常、不妊、胎児や幼児の発育の異常は、その影響による可能性が大きいことが生物学者らの世界各地の調査、研究で分かった。
 人類や地球生物の将来にとって驚異的な問題である。
 母乳に含まれているダイオキシン(対象は埼玉、東京、石川、大阪の4都道府県)を調べたところ、厚生省が安全の指針としている耐用摂取量(TDI、10pg)6〜7倍のダイオキシン濃度が検出された。
 紀伊水道沖の太平洋の深さ800〜1000メートルの海底にPCBが高濃度で蓄積していることが環境庁の調査で分かった。PCBは自然界には存在しない物質である。原因は不法投棄など人為的な影響が指摘されている。
 恩納通信所跡のPCBカドミウム、水銀などの有害物質は、航空自衛隊恩納分屯基地内で一時保管された。那覇防衛施設局は「将来的には関係法令に基づき、適切に処理したい」との意向だが、完全処理されるまでは気になる。
 1980年代後半から化学物質と環境問題が提起され、欧米各国はすぐ着手した。昨年から調査が始まった日本は、自前のデータがなく本年度からようやく科学技術会議の音頭で実体解明への総合的な取り組みが始まる。
 市場に出回っている化学合成物質は10万種類ともいわれるが、日本ではその実態すらよく分からない。実態解明と併せて「化学物質審査製造規制法(化審法)」を化学物質の生産量、輸出入、廃棄、大気中への放出量などが把握できる法体系に改めるべきだ。

〜沖縄タイムス1998/04/13朝刊・社説〜

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