「深海の魚の環境ホルモン汚染を解明した愛媛大教授の田辺信介(たなべしんすけ)さん」



〜琉球新報1998/07/21朝刊〜

 水深五百メートル前後の深海を泳ぐハダカイワシ科の魚は大型魚やほ乳類のえさとなり、食物連鎖で重要な位置を占める。この魚に、有機スズや、神経毒性、発がん性のある有機塩素系農薬が蓄積していることを解明した。

 いずれも生物の生殖機能に悪影響を与える内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)。「産・官・学、市民、政治家、五つの軸が一体となって取り組まないと環境ホルモンの問題は解決できない」と警鐘を鳴らす。最近、環境ホルモン問題が騒がれているが「たまたま20年以上研究してきた物質がそうだった」。

 愛媛大農学部の卒業論文で、カネミ油症事件の原因となったポリ塩化ビフェニール(PCB)による瀬戸内海の魚介類汚染に取り組んだ。

「魚がこんなに汚染されているのなら、周りの環境も」と、大学院で瀬戸内海全域の水や泥、大気、生物の汚染を研究。ところが「使われた量に比べ、残留量は意外に少ない」。汚染が拡散しているのではと考え、同大助手になって太平洋やインド洋、北極、南極などの調査に参加。大気や水の汚染の地球規模の広がりを明らかにした。

 1988年に米テキサス農工大に留学、毒性学を学び、帰国時に立ち寄ったスウェーデンでバルト海のアザラシ大量死、南インドのベンガル湾では奇形のイルカに遭遇した。「化学物質の蓄積が引き起こしたのではと思い、学術的興味だけでなく社会的にも重要な課題と感じた」ことから、野生生物の汚染問題にも取り組んできた。

 朗らかで、よくしゃべり早口だ。「研究とは新しい発見をすること。趣味はなく、研究一筋。休日も研究室に入り浸り」と言い切る。今までに世界の注目を集めた新しい発見がいくつかあった。

大分県別府市出身。夫人、長男、二女と四人暮らし。47歳。

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