〜朝日新聞1999/02/12朝刊〜
埼玉県・所沢産の野菜のダイオキシン濃度をめぐるテレビ朝日・ニュースステーションの
報道は、野菜の価格暴落などの波紋を広げた。番組は「市民、農家の苦しみ」を背景に
「行政の対応を促した」というが、農家をさらに苦しめる結果になり、データ提示の仕方に
問題を残した。
「所沢市民、農家は野菜のダイオキシン汚染について不安に思って苦しんでいる。
しかし、行政は調べようとしない。調べたJAはデータを公表しない」。
1日に放送された特集の前半は、そんな内容だった。
後半、調査を担当した民間研究所の所長が登場した。久米宏キャスターは、
所沢の野菜のダイオキシン濃度を独自に調べたデータを「あえて発表したいと思います」と
話した。
説明用のボードには「野菜のダイオキシン濃度」とあった。最高値は1グラムあたり
「3.80ピコグラム」(ピコは1兆分の1)で、厚生省の全国調査の最高値「0.43ピコグラム」を
大幅に上回っていた。
市場は敏感に反応した。大手スーパーが所沢産だけでなく埼玉産の野菜の入荷中止に踏み切り、価格も半値以下に暴落した。
その後、最高値「3.80ピコグラム」が注目されるようになった。この濃度を示したのが、ニュースステーションがボードで示した「野菜」とはいえない農作物だったからだ。
テレビ朝日が放送日を決めたのは、1週間前だった。報道局と編成局が、地元への影響や
放送時期などについて議論したが、「1日も早く公表し、行政の対応を迫るべきだ」との
結論に達したという。
しかし、入荷中止などの展開は予想を超えていたようだ。市内の農家は
「現場のことをまったく考えていない。だめにする報道ではないか」と憤る。
テレビ朝日の今村千秋広報部長は「JA所沢市が調査結果を公表し、国も基準づくりに
動き出すなど、それなりに一石は投じたと思っている。だが、国の統一的な安全基準がない
こともあって、数値の示し方に議論が集中したのは残念だ」と話す。
ボードの表記を「野菜」としたことについては、今村広報部長は「『葉っぱもの』
(農作物)にすべきだった。最大値の品種が何であるかを含め、来週早々研究者が県に
データを提出する」としている。
●周到な調査裏付けを──服部孝章・立教大教授(メディア法)の話
「3.80ピコグラム」という数値を出す以上、複数の調査機関にサンプルを持ち込むなどして
周到に裏付けるべきだった。行政が産廃施設から出る害と農作物への影響を調査せず対策も
とらなかったことや、命と土壌の大切さを問うた特集前半の問題提起までが帳消しに
されるのは残だ。テレビ朝日は、最大数値の調査地点や時期、品種をより具体的に視聴者に
説明し、継続調査すべきだ。行政は、自らの無策こそが問われていることを忘れてはならない。
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