「環境ホルモン、300化学物質が調査対象に」

法は未整備体制もまだ、まず64種実施−環境庁



〜朝日新聞1998/06/06朝刊〜

 環境ホルモン(内分泌かく乱物質)をはじめ化学物質に対する不安が高まっているため、環境庁は5日、 300の化学物質を新たに「要調査項目」に指定し、調査体制を強化することを決めた。このうち、給食などの容器に使われ問題になっているビスフェノールAなど64の環境ホルモンについては、今年度から全国の 100カ所以上の地点で緊急調査を始める。これまでは48の化学物質しか監視対象になっておらず、化学物質汚染への対応が大幅に遅れていた。
 化学物質は、魚類や飲み水など水を介して体内に摂取される割合が高い。環境庁はこれまで水銀、カドミウムなど環境基準項目として23、クロロホルムなど要監視項目として25の化学物質を指定し、川や湖沼、海などの汚染状 況を国や自治体が調査してきた。だが、化学物質は流通しているだけで5万種あり、もっと幅広い調査が緊急の課題となっていた。
 今回、環境庁が「要調査項目」とした 300物質は、アクリルアミド、エチルベンゼン、塩化ビニル、クレゾール、ジブチルスズ化合物、臭化メチルなど。このうち、環境ホルモンは、ビスフェノールAをはじめ、染料や有機合 成の中間物であるニトロトルエン類、殺虫剤に使われるメソミル、カルバリル、クロルデン、殺菌剤のマンゼブ、除草剤に使われる2、4―ジクロロフェノキシ酢酸、トリフルラリンなどとなっている。

 《解説》立ち遅れが指摘されている化学物質対策について、環境庁がようやく調査強化に乗り出したが、課題は多い。
 一つは、全国を網羅した監視体制をどう作り上げるかだ。これまで環境基準と要監視項目の計48物質を対象としていたのに比べれば、大きな前進。だが、補正予算を頼みに環境ホルモンの緊急調査が決まっているだけで、来年度からの予算も自治体を交えた体制も未整備だ。
 二つ目は調査をしてからの対策だ。どの程度までの濃度なら環境や人体に影響がないのか、まず知見を集めて指針値を作ることが必要だ。ところが、「要調査項目」は環境基準と違って法的裏付けはなく、指針値を超えても規制する手だてはない。
 同庁では化学物質を製造・使用する工場に、環境への排出量を公表させる制度の法制化を検討している。化学物質の調査から削減へという筋道をよりはっきりさせるべきだ。(社会部・杉本裕明)

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