これは平成2年度発表の旧ガイドラインだが、入手した前文を掲載する。
資料編T
ダイオキシン類発生防止等ガイドライン
平成2年12月26日
厚生省生活衛生局水道環境部長通知
−衛環第260号−
前 文
我が国におけるダイオキシン類についての問題は、昭和58年秋、ごみ焼却施設の集じん灰からダイオキシン等が検出されたとの報告により始まる。これにより、廃棄物処理に伴うダイオキシン等の問題は社会的に大きな関心を呼び、住民の不安感の発生や一部市町村においては、ごみ処理の円滑な実施に支障が生じるなどの廃棄物処理の問題として新たな取り組みが求められた。このため厚生省は、同年12月に水道環境部内に専門家からなる「廃棄物処理に係るダイオキシン等専門家会議」を設置し、翌59年5月には報告書が取りまとめられ、次の結論が得られているところである。
(1) ごみの焼却施設に伴う一般住民及び処理施設内の作業に従事する職員への影響については、四塩化ジベンゾーPージオキシン(TCDDS)の考えられる最大暴露量を仮定しても、現段階では、健康影響が見出せないレベルであったこと。
専門家会議では廃棄物処理に係るダイオキシンの問題を評価考察するための評価指針を2,3,7,9-TCDDとして0.1ng/kg/日に設定し検討を進めた。欧米の一部の国でダイオキシンの許容摂取量が定められている例もあるが、その値は大きな幅があり、国際的に定まった評価はない。
(2) ごみの焼却に伴って発生する焼却灰および集じん灰(以下「焼却灰等」という。)の埋め立て処分に関しては、当面覆土等により焼却灰などの飛散、流出を防止することおよび排水中の懸濁物質を適切に除去すること等現行法令の基準に従い適切に実施することが必要であること。
(3) ごみ焼却施設の排出ガス、焼却灰等及び排出水中のポリ塩化ジベンゾーPージオキシン(PCDDS)を分析する方法を取りまとめてみるとともに、併せて分析に当たってのPCDDSの取り扱いに関する事項を示したこと。
(4) 今後の課題として、ダイオキシンに関する総合的な知見の集積を早急に行う必要があり、幅広い取り組みが望まれること。また、ごみ処理の分野において、ダイオキシンの発生から制御、普及、応用が可能な分析方法等、モニタリング方法、ダイオキシン類似物質に関する調査研究に取り組むことが必要であること。
我が国の廃棄物処理に係るダイオキシンの現状はこれらの値と比較しても人の健康に影響を生じるといった状況ではない。また、その後の研究によりダイオキシン類は紫外線により分解促進されることが明らかにされているが、環境への排出は実施可能な限り強制することが望まれる。
ダイオキシン問題については、1980年より毎年国際会議が開かれており、1986年には我が国でも開催されている。これらの国際会議によりダイオキシン類の人体影響、環境影響、毒性評価、発生源対策などについての情報の集積が行われ、ダイオキシン類はごみの焼却施設のみならず、程度の差はあれ、各種の燃焼施設から排出されており、また、紙パルプの漂白行程等からも排出されていることが明らかにされている。ダイオキシン類についての環境問題全体として取り組む枠組みが定まっている状況でなく、毒性評価などについても未だ充分な知見が得られているとは言える状況ではないが、欧州の一部の国ではごみ焼却排ガス目標値を定めているケースも見られ、一番厳しい例で新設炉について、0.1ng/m3N(2,3,7,8-TCDD毒性等価換算濃度/Eadon)と定めているところも見られる。この目標値は毒性学、リスク学的根拠から定めたものでなく、将来的な技術的達成目標として政策的に定められたものといえる。また、この目標濃度を達成する方法は、技術的には確立されているわけではなく、研究開発が推進されているところである。1990年のダイオキシン国際会議においてもこの達成可能性が議論されている段階であり、ごく一部の研究において達成されているにすぎない。また米国においては、ダイオキシン抑制のための提案がなされているものの今後さらに調査研究を進める必要があるとして現在なお規制値が定められない状況である。
一方我が国においては厚生省が昭和60年度から平成元年度の5箇年間にわたり「廃棄物処理におけるダイオキシンなどの発生メカニズムなどに関する研究」を実施するなどいろいろな調査・研究を実施してきたほか、大学などの研究機関においても研究が進められ、一定の成果を得てきているところである。一方では、ダイオキシン類に関する研究をさらに進め、全容解明により一層の努力を払っていくことも急がれるところであり、またダイオキシンと同時にNOx、HCL等の発生防止をはかる総合的な対策が重要である。しかしながら、発生メカニズムなどこれまでの研究で知見をえられたことだけでも早急に対策を講ずることが重要である。
このため、本ガイドラインは、現時点において技術的に実施可能な限りダイオキシン類の発生防止などをはかるという観点から、円滑な廃棄物処理の実施による生活環境の保全の確保を前提に、ごみ処理に伴うダイオキシン類対策について総合的な対策をとりまとめたものである。対策効果は新設の際に構造改善等によるものが最も大きいが、既設についても対策を示しており、これらの対策を講じることによりダイオキシン類の発生の低減がすみやかに図られる。本ガイドラインに基づく対策により、我が国全体の焼却能力の7割以上を占める全連続炉のうち、新設炉については、排ガス中のダイオキシン類の濃度を0.5ng/m3N(2,3,7,8-TCDD毒性等価換算濃度/Internationalとして)程度以上になることが期待されており、他の型式の炉についても炉形式や稼働状況によっても異なるが現状に比べ大幅な排出濃度の低下が期待されている。また、既設炉についても排出濃度の低下が期待される。
このガイドラインは、我が国におけるごみの焼却処理が衛生的安全性の確保と減量化のため、ほとんどすべての市町村において実施され、国民生活にとって不可欠なものとして極めて重要な役割を担っていることを踏まえ、実施可能な限りの対策を講じようとするものであり、新設の施設においては、規模の大小毎にそれぞれ相当高度な技術を要するものとなっており、また、既設の施設においても、相当の管理技術を要求するとともに、対策が徹底した場合には1/10程度以下になることが推定される。しかしながら、現在既に稼働している焼却施設や建設が進められている施設などでは設備的にすみやかにこのガイドラインに従った運転状況を確保できない施設も十分に考えられるので少しでもガイドラインの方向に近づけるとか、更新の際に対応するとかにより努力していくことが重要である。
すなわち、本ガイドラインでは、ダイオキシン類抑制に効果のある指針をとりまとめており、完全な指針の遵守が得られなくともこの方向に向けた運転状況の改善により、現状の排出量を大幅に低減できる。
今後のダイオキシン類の対策としては、このガイドラインに従った対策が進められることが最も重要であるが、ごみ処理に伴うダイオキシン類対策については、既に述べたように、ごみ処理にとどまらず、他の発生源対策もより一層の研究を進めるべきものである。
なお、このガイドラインは世界的なダイオキシン類についての対策を勘案しつつ、新たな科学的知見、技術開発等の進展に応じてさらに改良することが望まれることを付言する。
※コメント「日本のダイオキシン汚染は防げたはずなのに」もとぶ野毛病院 上田 裕一
Last update:1998/02/04 / fami@shinra.co.jp Back